雪の朗読会

8日の雪の中、日本近代文学館という所に、初めて行った。

雪の駒場東大前駅に降りたのも初めて。朗読会というものも初めてなら、

絲山秋子氏、阿部日奈子氏、伊藤比呂美氏に生で会うのも無論初めて。


絲山さんは性別不祥な声で、ニイタカヤマノボレを淡々と朗読された。

鉄塔のある土地の、男と女と預言者アスペルガーのいとこ、

あらすじよりも、映像が目に焼きつくような小説だ。

終わってみると、バラバラの写真が数枚手元にあるものの何もなかったような…

そんな感覚はどうしてだろうか。小説の朗読だから?


詩の朗読を荒川洋治さんは否定なさっているが、阿部さんの「朽ちなむ名こそ」の朗読を聞き、

詩が立ち上がるというか、詩を聞くうちに、人物が登場するという感じがあった。

文楽が下書のせいもあるのだろうが、芝居小屋にいる気分がした。

思いもかけない新鮮な体験だった。


司会の伊藤比呂美さんの詩の朗読も聞いてみたいものだ。

だた今回、詩と小説の垣根について話すのなら、伊藤さんに

沖で待つ絲山秋子 芥川賞受賞作品は読んでおいてほしかったな。

あれはPCに残した詩のようなものを消しに行く話ではなかったか。


雪の中をゴム長で歩きながら思った。

近代文学館には、まったく女の作家の匂いがしない。

現代は引き伸ばされ、今近代は埋もれてしまいかけている。

近隣の豪邸がまた妙に現代建築ばかりだ。存続の寄付金を募ってはどうか。


雪の中、絲山さんは猟銃を担いで、犬と獲物を探しに行く。

阿部さんは、寒い道場で、はだしに白い鉢巻でナギナタを構えている。

伊藤さんはフットワークを止めることなく動いていて、空手あるいは少林寺

そんなふうにも見えた、現代文学の戦う女たち。


そうそう、中のBUNDANのコーヒーは、ここ数年味わったことのないおいしさだった。

ジャワコーヒー、鴎外。また飲みたい。